1.18.2014

幾何概論1

村上信吾「幾何概論」を読む。まずは基本事項の復習。

Ⅰ 群と位相

1. 群とベクトル空間

・ 実数、複素数を無定義に導入する。実数の集合をR、複素数の集合をCと書く。どちらか特に指定しない場合はKと書く。

・ 直積集合Rn、Cnをn次元数空間という。これらには様々な構造が入る。ベクトル空間、距離による位相空間、アフィン空間、ユークリッド空間、リーマン空間など。今後の議論に際してどの構造を設定しているか注意する。

・ 数空間はベクトル空間の構造を持つ(数ベクトル空間 numerical vector space )。

・ n次正方行列の集合をMn(K)と書く。Mn(K)はK-algebra (ベクトル空間であり、環であるもの)である。

・ 可逆行列 invertible matrix のことを正則行列 non-singular matrix ともいう。正則行列全体の集合には群構造が入る。これをK係数n次一般線形群 general linear group という。

・ Mn(K)の元はベクトル空間Knの一次変換と同一視できる。

● 群の概念


・ 群とは結合法則を充たし、単位元を持ち、全ての元に対して逆元を持つ代数系である。

・ 群の例として、一般線形群、環の乗法群、一般変換群 general transformation group、n次対称群 symmetric group などがある。

・ 部分群 subgroup とは部分集合に群構造が入り、それが全体集合の群構造と一致しているようなもの。

・ 群Gの部分群H,H'について、H∩H'もまたGの部分群である。


・ 群の部分集合Sが与えられたとき、Sを含む最小の部分群が存在し、Sの生成する部分群という。ただ1つの元で生成される群を巡回群 cyclic group という。

・ GL(n,K)の部分群としてユニタリ群U(n)、直交群O(n)がある。GL(n,K)の元を一次変換として見たとき、これらは標準内積を保つものからなる。

・ Nが群Gの正規部分群 normal subgroup であるとは、任意のg∈Gに対し、gNg-1=Nとなることをいう。もっとも簡単な例として、Gが可換群である場合はすべての部分群は正規部分群となる。

・ Nが群Gの正規部分群のとき、左剰余類G/Nと右剰余類N\Gは一致し、群構造が入る。これをGのNによる商群 quotient group または剰余群 residue class group という。

・ 2つの群の直積集合も群構造を持つ。

・ 群準同型写像 group homomorphism とは、群から群への写像で積を保つもの。

・ 群GとG'の間に全単射準同型写像があり、逆写像も準同型であるとき(この条件は実際は除ける)、GとG'は同型 isomorphic であるという。


・ (準同型定理) 群準同型ρ:G→G'に対し、im ρはG'の部分群、ker ρはGの正規部分群であり、同型G/ker ρ~im ρが成立。


・ 群GからG自身への準同型写像をGの自己準同型 endmorphism という。同型写像をGの自己同型 automorphism という。g∈Gに対し、写像AgをAg:G→G (x→gxg-1)で定めると、AgはGの自己同型となる。これを元gによるGの内部自己同型 inner automorphism という。内部自己同型で写り合う元や部分群を共役 conjugate という。

・ 積が可換であるような群を可換群またはアーベル群 abelian group という。この場合、積を+で書き、単位元を零元0と呼び、gの逆元をマイナス元-gで書く記法を採用することも多い。そのように書いたときは、加法群 additive group という。

・ 整数の集合をZ、有理数の集合をQと書く。Z,Q,R,Cとも加法によって加法群である。

・ Zは1により生成される巡回群。mZはZの部分群であるが、Zは可換であるから特に正規部分群である。そこで商群Z/mZが定まるが、これは位数mの巡回群である。


● ベクトル空間


・ スカラー倍の定められた加法群をベクトル空間 vector space という。

・ {0}でないベクトル空間Vの任意の元が、有限個の一次独立な元e1, …, enの一次結合で書けるとき、Vは有限次元であるという。このような条件を充たす元の組(一般には順序も込めて)を基底という。基底の濃度は基底のとり方によらず一定であり、これをVの次元といい、dim Vと書く。dim {0}=0とする。以下では有限次元ベクトル空間のみを扱う。


・ 部分ベクトル空間とは、ベクトル空間の部分群であって、スカラー倍についても閉じているようなもの。

・ ベクトル空間Vの部分空間W,W'に対し、W∩W'もまたVの部分空間。


・ ベクトル空間の部分集合Sが与えられたとき、Sを含む最小の部分空間が存在し、これをSの生成する部分空間という。 ベクトル空間Vの部分空間W,W'に対し、 W∪W'の生成する部分空間をW+W'で表す。


・ (次元公式)  ベクトル空間Vの部分空間W,W'に対し、dim W + dim W' = dim (W+W') - dim W∩W'


・ Wをベクトル空間Vの部分空間とするとき、商群V/Wにはベクトル空間の構造も入る。これをVのWによる商ベクトル空間 quotient vector space という。

・ 線型写像 linear map とは、ベクトル空間からベクトル空間への写像で和とスカラー倍を保つもの。

・ ベクトル空間VとV'の間に全単射線型写像があり、逆写像も線型であるとき(この条件は実際は除ける)、VとV'は同型 isomorphic であるという。ベクトル空間における同型は、次元が等しいことと同値である。


 (次元公式2) 線型写像ρ:V→V'に対し、im ρはV'の部分空間、ker ρはVの部分空間であり、同型V/ker ρ~im ρが成立。特に、dimV = dim ker ρ + dim im ρ


・ ベクトル空間VからV自身への線型写像をVの一次変換という。これが同型写像であるときは特に正則一次変換という。群のときと同様に自己同型といういうことも多い。Vの正則一次変換全体のなす群をVの一般一次変換群 general linear transformation group といい、GL(V)で表す。GL(Kn)はGL(n,K)と自然に同型である。

・ K-ベクトル空間VからKへの線型写像を、一次形式 linear form という。V上の一次形式全体のなすベクトル空間をVの双対ベクトル空間 dual vector space といい、V*と書く。Vの基底{e1,…, en}に対応して定まるV*の基底{f1, …, fn} (fi(ej)=δij) を{e1, …, en}の双対基底という。


・ K-ベクトル空間Vに対し、成分ごとに線型な写像V×V→Kを、双一次形式 bilinear form という。V上の双一次形式gが非退化 non-degenerate とは、「g(x,y)=0が任意のyに対して成り立つのはx=0のときに限る」という条件を充たすこと、gが対称 symmetric とは、g(x,y)=g(y,x)を充たすことをいう。

・ K-ベクトル空間V上の対称双一次形式gに対し、q(x)=g(x,x)で定まる関数q:V→KをV上の二次形式 quadratic form という。逆に二次形式qが与えられたとき、g(x,y)={q(x+y)-q(x)-q(y)}/2によって、対称双一次形式が定まる。

・ K-ベクトル空間Vに対し、写像g:V×V→Kが、3つの条件、(1)正値、即ちg(x,x)≧0かつ、等号成立はx=0に限る、(2)Hermite対称、即ちg(x,y)とg(y,x)は複素共役、(3)第一成分について線型、を充たすとき、gをV上の(複素)内積 inner product という。特にK=Rのときは、gは非退化な対称双一次形式である。K=Cのときにはそうはならないが、非退化なHermite対称半双一次形式 non-degenerate Hermitian symmetric sesquilinear form と呼べるようなものになっている。

・ 一般の体K上のベクトル空間Vにおける内積とは非退化な対称双一次形式とする。この意味の内積と上の意味の内積は異なることに注意せよ。以下では、K=R,Cのみを考え、内積という語は上に定義した意味で用いる。

・ ベクトル空間Vにおいて複素内積gを固定して考えるとき、g(x,y)を<x,y>と書く。以下、内積の与えられたベクトル空間を単に内積空間といい、内積はこのように書くことにする。

・ (Rieszの表現定理) 内積空間V上の一次形式fに対し、f(x)=<a,x>を充たす、a∈Vが存在する。

・ 内積空間Vの基底{e1, …, en}が<ei,ej>=δijを充たすとき、これをVの正規直交基底 orthonormal basis という。Gramm-Schmidtの直交化法により、1次元以上の内積空間には正規直交基底が必ず存在する。

・ ベクトル空間Vに対し、写像N:V→Rが、3つの条件、(1)正値、即ちN(x)≧0, (2)斉次、即ちN(ax)=|a|N(x), (3)三角不等式、即ちN(x+y)≦N(x)+N(y)を充たすとき、NをV上のノルム norm であるという。

・ ベクトル空間VにおいてノルムNを固定して考えるとき、N(x)を||x||と書く。


・ 内積空間Vにおいて、N(x)=√<x,x>と定める事により、ノルムが得られる。つまり、内積空間はノルム空間である。内積空間では常にこのようなノルムを考える事にする。

・ 内積空間Vの内積を保つ一次変換をVの直交変換(K=R)、ユニタリ変換(K=C)という。これらはGL(V)の部分群をなす。表現行列は直交行列、ユニタリ行列になる。

・ 内積空間Vの一次変換αが<α(x),y>=(x,α(y)>を充たすとき、αをVの対称変換(K=R)、Hermite変換(K=C)という。表現行列は対称行列、Hermite行列になる。

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